フライシャー兄弟の録音技術

映像と音をどうやって合わせるかはアニメーションの永遠の課題。
初期のフライシャーはいったいどうやって映画に音をつけていたんだろう?

"The Fleischer Story" 
by L. Cabarga, DaCarpo Press, N. Y. ISBN0-306-80313-5

を元に書きとめておこう。

最初、フライシャーは店で買った78回転のレコードを使っていたらしい。アニ
メーターがこれを何度も聞き込んでアイディアを練り、ドラムがどんと鳴れば、
キャラクターは必然性がなくても飛び上がった。でも、音楽家組合からクレーム
が来て、このやり方は御和算になる。

1930年代になると、まず最初にアニメーションが描かれ、次に音楽がほどこされ
るようになった。でも、長いフィルムに直接音を焼き付けていたので、編集はな
しで、映画一本分が1テイク。途中で少しでも間違えたらそのサウンドトラック
は全部ゴミ箱行き、最初から演奏のし直しだった。

音楽をアニメーションにどうやって合わせてたかというと、はじめは映写された
映画を指揮者が見て、指揮棒を振っていた。一種の伝言ゲームみたいなものだか
ら、シンクロさせるのは大変だった。

そこで、ルー・フライシャーが「ビーター」というのを編み出した。ビートを出す
から「ビーター」。これは「バウンシング・ボール」の応用で、映像の横で
白いボールがぽんぽんはねて合図を出してくれる仕組み。ボールといっても、
それはフィルムに空けた穴だった。

ちなみにフライシャーが知っていたかどうかはともかく、じつはディズニーと
アイワークの「蒸気船ウィリー」(1928) でもすでに、録音のキュー用に、
フィルム横に弾むボールが手書きで描かれていた。もっとも、
「バウンシング・ボール」はそれより以前からフライシャーの専売特許
だったので、このアイディア、どちらが先とは言いがたい。ともあれ、演奏者が
直接このボールを見て演奏することで、映像と音楽のタイミングはずっとうまく
合うようになった。


もうひとつ、おもしろいエピソードが残っている。 デイブ・フライシャーはサウンドトラックフィルムに焼き付けられた模様を見 て、これをインクで描きなおし、さらに別のフィルムで撮影して再生してみた。 すると、なんと元とだいたい同じ音がするばかりか(あたりまえだ)元よりクリ アではないか(たぶん細かいノイズを無視してエッジをはっきり書いたから だ)。つまりサウンドトラックを使えば「音の指紋」が取れるわけだ。驚いた フライシャーはこれを特許にした。「アルファベットをあらかじめバラバラに サウンドトラックにして、その形をつなぎあわせればことばを再生できるでしょ う」などと報じられた。 もし、「適当に絵を書いたらどんな音になるか?」とフライシャーが考えていれば、 実験アニメーションの道まっしぐらだったところだ。 そんなもん、いまなら波形編集ソフトでできるんでないの? なんて野暮はいいっこなし。 この、絵から音を出す驚きって、最近の MetaSynthをいじる驚きとまさに同じではないか。 ああフライシャーに見せたいぜ、MetaSynth。 ちなみにMetaSynthはとってもすばらしいソフトなので、 絵を描くことで音を出したい人はいますぐチェックするべき。 (1998.03.15)


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