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20000816


ミュンヘン→インスブルック



 まずは朝の一仕事。買った本を少し郵送。8kgでおよそ120DM。

 再び、ドイツ博物館へ。今回は飛行機、鉱業の部を中心に見る。飛行機、というと、翼にもっぱらの焦点が集まりがちだが、たとえばエンジンや航行装置、車軸の出し入れのメカニズムなどのディスプレイも充実している。単なる飛行産業としてではなく、総合科学の結晶として飛行機があり、その果てに宇宙開発があることが丁寧に示されている(そしてもちろん、計測や天文学や航行の部を見ることで、こうした総合性はいや増す)。

 あるいは橋。橋とは力学の結晶であることがわかるだけでなく、構築の途上には、完成された橋とは異なる力学に支えられて、両側からその腕をのばしていくものなのだということがよくわかる。
 こうした力学の、まさに結晶として(なにしろ六角型に組まれているのだ)明石大橋に使われたワイヤーのモデルが展示してあった。ここでこういう風に技術の粋を教わるとはね。日本では、「その技術は、明電舎が支えています」としか教わらなかった。それとも「メタルカラーの時代」にこういうことって書いてあるのかしらん。

 そして何より鉱業。冷え冷えとするほど地下深くに下り、照明もひかえめになり、行く先々の狭い岩場に身をひそめる人形に、ああこんなところに挟まったまま一生を終えたとしたら、と、つげ義春的悪い夢を見、この地下世界を果てまで導くかのようにあちこちに埋めこまれた線路を見、ようやく階段を上るのでやれやれ地上に行くのかと思えば、また地下に下ろされ、開けたところに来たと思えば、そこは地下教会だったり、馬小屋だったりする。そうか馬まで入ったのか。こうした営為の果てに現在の自分があるといえばそうなのだが、そのような「果て」とは、自分とは別の人間とのつながりを仮定して初めて出る考えであって、この暗さの中で、死ぬ人間は死ぬ。地下と地上のつながりを疑わざるをえないほどに、ここには地下の生活を成り立たせるものがある。そういうことを、この博物館は見せる。

 売店で今日も本を買う。F殱slin Verlagから出ているジオラマや視覚に関する本を中心に。このシリーズは「フィルム・ビフォア・フィルム」のネケスもからんでいて、資料写真が充実している。あれこれ想像の翼がはためく。そして鞄はまた重くなってしまう。

 カフェでトーマスクックの時刻表を見ると、ミュンヘンからインスブルックは約二時間だ。そしてインスブルックにはパノラマがある。というわけで夕方、電車に飛び乗りインスブルックへ。しかし、パノラマ館の開館時間に間に合わなかった。結局、インスブルックに泊まることに。

 夕方の奇妙な雨。谷間の町から陽はすでに隠れ、空に満ちた雨雲は高みにあって、そこからは微かに見えるであろう陽の光をいっぱいにはらんで、この地に鈍い光を散らしている。町は、わずかに桃色を帯びて散乱するこの光に照らされながら、次第に山から下りてくる雲に隠れていく。そのくせ空をよく探せば、ほんのわずかだが青空さえ残っている。
 空は次第に色を失っていくが、稲光が雲の陰を明らかにすると、なおあちこちに蒼ざめたような切れ間があることがわかる。

 宿の近くのレストランで食事。チーズとレバーとベーコンの三色クネーデルで、胃がもたれそうなほど。少しずつビールで流し込みながら低いドーム型の天井を見ていると、パノラマの空のように距離はあいまいになっていく。

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Beach diary