Texture Time: 15 January 1997
San Francisco -> Palo Alto


サンフランシスコからパロアルトに向かう列車は湾をなぞる 97/1/15 12:19 左手には湾、右手には低い山々 97/1/15 12:20 山々の向こうは太平洋 97/1/15 12:20 山の稜線は明るい 97/1/15 12:21 この明るさを、何度も見た 97/1/15 12:21 山が近いのに、その向こうには何もないという感じを 97/1/15 12:22 その明るさからは受ける 97/1/15 12:22 この曇天のすきまから 97/1/15 12:22 たぶん広い海のあちこちに光が落ち 97/1/15 12:22 それが雲に跳ね返り 97/1/15 12:23 山の向こうを明るくしている 97/1/15 12:23 そんな風に、この稜線の明るさを考えてみる 97/1/15 12:23 輪郭がきわだち、事物が世界から切り離され、 はっきりとその姿を現わす 97/1/15 12:24 街のいたるところから見えるその後ろ盾のなさを 97/1/15 12:24 街のいたるところにある、きつい坂道をのぼり切ると 97/1/15 12:27 家並みが丘まで続き、 97/1/15 12:29 丘の端は後光で薄く照らされ、かえって影を増す 97/1/15 12:29 プラットフォームの定かでない駅を過ぎる 97/1/15 12:30 昨日、地下鉄で、 線路に降りて反対側のホームへ飛び移る少年を見た。 97/1/15 12:32 彼は話し相手と握手し、 97/1/15 12:33 身体を線路側に倒し 97/1/15 12:33 握手する手を離すと同時に 97/1/15 12:34 線路に落ち 97/1/15 12:34 その勢いで一歩二歩 97/1/15 12:34 三歩めでジャンプした。 97/1/15 12:34 ホームとホームの間には二本の線路 97/1/15 12:35 そこには日本のように、電気は通っていないらしい 97/1/15 12:36 飛び越えられる線路 97/1/15 12:36 近いところにある海 97/1/15 12:36 線路と同じ高さにあるプラットフォーム 97/1/15 12:39 HILLSDALE 97/1/15 12:40 キリコの絵の海の予感とは違う、海の明らかさ 97/1/15 12:41 乾いた薔薇や彫像や黄色い壁、濃い影から 97/1/15 12:42 帆を探し、水分を探し、海を探すのではなく 97/1/15 12:42 薄い色彩の街 97/1/15 12:42 その山の向こうに、幾山河も、分け入る青い山もなく 97/1/15 12:43 ただ漠然と明るい大洋だけを抱えているという 97/1/15 12:44 明るい寂寞があって 97/1/15 12:45 その山々の連なりと並ぶように 97/1/15 12:45 列車はさらに南に向かう 97/1/15 12:45 SAN CARLOS 97/1/15 12:46 桜が咲いている 97/1/15 12:47 家並みの間からのぞく柑橘系の実のなった木 97/1/15 12:48 土手の雑草に注意をこらしていると 97/1/15 12:48 乾いた海に近い場所を思わせる固そうな茎が 97/1/15 12:49 地面を這い 97/1/15 12:50 その緑色は 97/1/15 12:50 日本のようでもあり 97/1/15 12:50 どこか知らない土地の植物のようでもある 97/1/15 12:50 警笛が鳴る 97/1/15 12:51 アコーディオンのじゃばらをだらしなく伸ばすような和音 97/1/15 12:52 ド・ミ・ソ・ラ・ドと聞こえる 97/1/15 12:52 なぜラが入っているのだろう 97/1/15 12:53 柑橘系の実は誰が食べるのだろう 97/1/15 12:54 駅名を告げる英語は 97/1/15 12:54 単語の切れ目に向かって調子が上がる 97/1/15 12:55 母音が長くひっぱられる 97/1/15 12:55 「ディファレント・トレイン」で聞いた駅名のように 97/1/15 12:56 ぼくはパロアルトで降りなければいけない 97/1/15 12:56 たぶん、駅名は聞き取れない 97/1/15 12:56 外は小雨だ 97/1/15 12:58 山影は薄く、その薄さの後ろには何もない 97/1/15 12:58

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