軒先に停めた青い子供用の自転車を見て
11:49 AM May 30, 2008
能登川に停まってもまだそのことを考えている。
11:49 AM May 30, 2008
レンタサイクルアオキという看板を目が捉える
11:50 AM May 30, 2008
これは自転車のことを考えながら乗っている列車だから
11:51 AM May 30, 2008
あ、麦がもう黄金色だな
11:51 AM May 30, 2008
その向こうにある衣笠山では、春に坂下ろしの神輿が猛烈な勢いで下ると聞いた
11:52 AM May 30, 2008
麦秋にその神輿をさかおとし
11:52 AM May 30, 2008
そこをレンタサイクルアオキで借りた青い自転車が横切る
11:53 AM May 30, 2008
カラスが足下を試すように歩くのが見える。
11:53 AM May 30, 2008
安土駅のそばには駐車場があり
11:53 AM May 30, 2008
中川様や中島様のためのスペースが墨字で綴られている
11:54 AM May 30, 2008
そのスペースも、レンタサイクルアオキで借りた自転車のものだ
11:54 AM May 30, 2008
南に下っていることを知る。麦畑が刈り取られているから。
11:55 AM May 30, 2008
麦秋から収穫の季節へと、その速さも自転車のものだ
11:56 AM May 30, 2008
特優賃入居者募集の看板を見ながら、そこには入居せず自転車はゆく
11:57 AM May 30, 2008
なぜならこの列車は、各停でありながら京都まで先に着きます。
11:57 AM May 30, 2008
高槻まで各駅に停まります
11:58 AM May 30, 2008
世界のエレベーターフジテックと書かれた近江鉄道を横目で見ながら、京都まで早く着きます
11:58 AM May 30, 2008
空を金色に吸う麦畑から、空を空のままはね返す田へ
11:59 AM May 30, 2008
左側のドアが開く篠原へ
12:00 PM May 30, 2008
窓際にはコカコーラがある。コカコーラが安い、という倉地さんの歌を思い出す。
12:01 PM May 30, 2008
コカコーラは、どこでなら、安いのか。
12:01 PM May 30, 2008
それも自転車で探るべき問題か。
12:01 PM May 30, 2008
そして、となりの男はものすごい勢いで昼食をくうのだ
12:02 PM May 30, 2008
梅雨空が近いからか。
12:02 PM May 30, 2008
ソース、ソースのついた何かをきみはたべたのだな。
12:03 PM May 30, 2008
鼻を刺すソース、酢酸
12:03 PM May 30, 2008
さくさん、と頭の中で唱えると、この匂いは少し親密になる。
12:04 PM May 30, 2008
野洲、という駅の名前と同じくらい。
12:04 PM May 30, 2008
隣で眠りだした見知らぬ君のことを、これからさくさんと呼ぼう。
12:04 PM May 30, 2008
さくさん
12:05 PM May 30, 2008
さくさんが画面をのぞいていないのをいいことに、ぼくはさくさんのことを一方的に世界に報告しているんだ。 ...
12:05 PM May 30, 2008
140文字を越えるほどたっぷりと、報告しているんだ
12:06 PM May 30, 2008
だからコーラを飲んでみよう。
12:07 PM May 30, 2008
おむすびのような近江富士を見ながら、君の食べたソースの味のことが気になってしかたがない。
12:07 PM May 30, 2008
さくさん、ふどうさん
12:07 PM May 30, 2008
守山のそばには、西村屋ふどうさん、っていう店があるんだ。
12:08 PM May 30, 2008
電車がまいります、という電光掲示板通りに駅にすべりこむこの列車
12:08 PM May 30, 2008
目をつぶることで殺していく、さくさんの時間
12:09 PM May 30, 2008
そのまぶたの裏を、自転車が過ぎているから、さくさんは眠れないのだ。
12:09 PM May 30, 2008
ちら
12:10 PM May 30, 2008
さくさんを見るたび、自転車が通り過ぎる
12:10 PM May 30, 2008
栗東に着いても
12:11 PM May 30, 2008
馬がこちらに走ってくるポスターが、トレーニング・センター、のありかを告げる
12:11 PM May 30, 2008
トレーニングセンターからやってきた馬なのだろう
12:11 PM May 30, 2008
しかし、あぜ道を漕ぐ自転車の人のほうに、目が奪われていく
12:13 PM May 30, 2008
車止注意
12:13 PM May 30, 2008
トレーニングセンターとさくさんのきずなは、自転車で横切られる
12:13 PM May 30, 2008
乗換駅はぽっかりとしている。草津。
12:14 PM May 30, 2008
貴部川・柘植方面という文字が、選ばなかった場所を示しているからだろうか。
12:15 PM May 30, 2008
ベランダに置かれた水上バイクが、湖の存在を示しているからだろうか。
12:16 PM May 30, 2008
琵琶湖線から琵琶湖が見えることは、ほとんどない。
12:17 PM May 30, 2008
草津から南草津へとくだっても。
12:17 PM May 30, 2008
学生が増え、車内が若やいでも。
12:18 PM May 30, 2008
スピード実印の速さでメタルアートを生み出しても
12:18 PM May 30, 2008
さくさんの頭はいよいよ重く垂れ下がる。
12:19 PM May 30, 2008
しかし、水が近い
12:20 PM May 30, 2008
瀬田の、瀬、が水の境の予感を投げる
12:20 PM May 30, 2008
瀬田の唐橋は、瀬田駅よりもむしろ石山駅に近い。
12:21 PM May 30, 2008
タマネギをずらりと下げた軒先を過ぎ
12:21 PM May 30, 2008
細かく区割りされた自家菜園を過ぎ
12:22 PM May 30, 2008
川を渡る
12:22 PM May 30, 2008
紫式部がこの地にいたことが信じられないほど
12:23 PM May 30, 2008
石山駅は終日禁煙で
12:23 PM May 30, 2008
さくさんはその、駅構内をちらと見てから
12:24 PM May 30, 2008
目をこすって、また目をつぶる
12:24 PM May 30, 2008
ぜぜ、という音を地名に選んだのはなぜなのだろう
12:25 PM May 30, 2008
近江八景にぜぜはいりまへんのや、と米朝がサゲを言うためか
12:25 PM May 30, 2008
いや、それは本末転倒だ
12:26 PM May 30, 2008
オオミ堂の、売ってから買うか!買ってから売るか!という看板とおなじくらい
12:26 PM May 30, 2008
笹川賞のゆくえを追う新聞記事が、ぱりぱりと畳まれていく
12:27 PM May 30, 2008
おじさんの好みの記事が、片手で握れる大きさになる
12:28 PM May 30, 2008
大津を過ぎ、電車は混み合ってきた
12:28 PM May 30, 2008
ああ、自転車を忘れていた
12:29 PM May 30, 2008
能登川で拾った青い自転車は、大津ではまるでなじまない。
12:31 PM May 30, 2008
長いトンネルを過ぎて、すっかり南向きになった車内で
12:31 PM May 30, 2008
麦も田もなく
12:31 PM May 30, 2008
さくさんの浅い眠りだけが道連れだ
12:31 PM May 30, 2008
さくさんは山科が来ても眠り続ける
12:32 PM May 30, 2008
信じるに足る眠り
12:32 PM May 30, 2008
わたしは京都で降りるけれど
12:32 PM May 30, 2008
喪服の女が携帯をかけて電車を見送る山科を出て
12:33 PM May 30, 2008
寺西幼稚園のカラフルな看板を見て
12:34 PM May 30, 2008
もうすぐトンネルをくぐるけれども。
12:34 PM May 30, 2008
今、いのちがあなたを生きている
12:36 PM May 30, 2008
という寺のメッセージを見ると、もう鴨川を渡る
12:36 PM May 30, 2008
自転車がうまく思い出せない。
12:36 PM May 30, 2008
京都。
12:36 PM May 30, 2008