パリの絵はがき祭り。100軒近くが一同に介する大絵はがき大会である。パリ内だけでなく、フランス各地、さらには国外からも絵はがき屋が集まる。ドイツ系の店などはマルクで値段が打ってあり、フランス語の換算表が用意されている。来年に備えてか、ユーロで書いてある店も多い。 一軒一軒に膨大な数の絵はがきがあるので、すべてを見るとキリがない。少し立ち止まって見ているとたいてい「何かおさがしですか?」と聞かれる。「リヨン、19世紀」などとジャンルを答える。主人はよしわかったという風にうなずき、後ろの棚から数百枚くらいのストックを箱入りでどんと目の前に置いてくれる。気のきいた店なら、絵はがきをくるための木板が用意してあって、その上で一枚一枚繰る。でなければ、目の前にずらりと並んだ、絵はがきの箱の上に直接絵はがきをのせていく。 欲しいものがなければ、ばらけた絵はがきをとんとんと揃えて「Non, merci」といって次の店に移る。 こうして一日絵はがき繰りマシーンと化す。買った店は半分くらいだと記憶するが、後で絵はがきの入った封筒を数えたら31枚あった。つまり60軒くらいは廻ったということか。一軒平均100枚としても数千枚のはがきを繰ったことになる。最後のほうは朦朧としてきて、数日前に一度街中で行った絵はがき屋の出店に行って「あら、あなたこの前きたじゃない、あれから新しいの入ってないわよ」と言われてしまった。後で調べたら、同じものを二組も買っていた。 人によっては指ぬき持参で、銀行員が札束を数えるような速さで探している。が、こちらは興味が分散しているし、表書きにも裏にも興味があるので、一枚一枚裏表を見ては横に置いていく方式。 ストックをもらったら、まず、10枚くらい繰って値段の感触を見る。それから、とにかくしらみつぶしに繰って、欲望と値段の折り合いそうなものを抜いていく。最後にそれをもう一度検討して、その店で買うものを決める。時間はかかるが、結局このやり方のほうが長く続く。 ストックには一つのアルバムや特定の個人から入手したもの、あるいはシリーズをバラしたものが含まれている。たとえば、リヨンの同種の絵はがきがいくつか続けば、だんだん近づいてきたという感触がするし、それは気のせいではない。特定の興味のもとに集められたものがまとまって入っている可能性が高いからだ。 目の前に現われる絵はがきとこちらの趣味が一致すると、繰りながら、かつてこれを所持していたであろうコレクターにシンパシーを感じさえする。 大事なのは、こちらの興味と店の興味が微妙にずれていることだ。ぴったり合っていれば出物が多いが、それはすなわち店の主人も値打ちを認めているということであって、値段は高い。 いちばんいいのは、大まかな興味が一致しているが、価値観の違う店だ。たとえば、日本の絵はがきをたくさん持っているが、木版絵はがきは駄物だと考えている店に当たれば、木版を安く買える。もちろん、こちらが駄物だと考えているハガキがべらぼうに高い場合もあるが、それは見送って別の店に当たればよい。 一日立ちづくめで、目も腰も疲れた。夜、サン・ドニの近くで食べる。現在のパサージュの多くが、サン・ドニ通りのようなセックスショップやピープ・ショーの立ち並ぶ場所に面しているのはおもしろい。パサージュは表通りから「ピープ(覗きこむ)」ための場所でもある。 |