朝の雨。 遅い朝は肉市場。 すぐ近所のサンタ・マリア教会から十五分ごとに鐘が聞こえる。十五分は1回、三十分は2回、四十五分は3回、〇分は4回と時報だ。 乾いた二度の音は、素人名人会の鐘を思い出させる。ぼんやり読書をしているとキンコーンと来る。いまのあなたの十五分は鐘二つです、と言われている気がする。 そんな風に十五分ごとにいまの自分を評価してくれるサンタ・マリア教会とはどんなところかと思って行ってみる。ステンドグラスが美しい。彫像の多くはスペイン市民戦争中に焼けて作りなおしたもののようだ。 ちょうど聖歌のリハーサルをしているところで、おそらく、二階のパイプオルガンのわきで、女性がこの教会のテーマソングであろう「アヴェ・マリア」を歌う。声がはねかえって声に重なり、声と入れ代わろうとする。オルガンのアルペジオが声の下降とすれちがいながら上昇する。後ろで聞いていると、それらの反響が幾重もの時間になって何度も上昇と下降が戻ってくる。 パラレルの地下鉄構内でスリに会いかける。手口はこうだ。 モンジュイックの丘へ向かおうと地下鉄を降りてエスカレーターに乗った。左側は急ぐ人のために開けてある。一段おいて前の男のジーパンの尻がやけにでかいなと思ってぼんやり見ていると、するすると左から別の男が上がってくる。そして、前の男が降りる直前につんのめるように足を止める。おかしい、と思ってポケットに手を入れたら、そのポケットに誰かが後ろから手を入れようとしてくるので身をよじって振り切ってエスカレーターを降りる。 すると、男が三人さっとばらばらになり、何食わぬ顔で早足で歩き去る。 つまりこうだ。まずAが前に立ち、Bが後ろから上がってきて横に立つ。さらにCが遅れて上がってきて後ろにつく。そして降り際にAが立ち止まることで詰め碁のようにカモを三方から取り囲む。エスカレーターの階段は動いているため足場は不安定だし、スリにはもってこいだ。よく考えてある。 たぶん、まっとうな格好のジャケットを着ていたこと(金を持ってそうに見える)、さっさと降りずに地下鉄構内で録音をしていたためエスカレーター付近に人がほとんどなかったこと、さらには相方と離れてエスカレーターに乗ったことがまずかったのだろう。 モンジュイックの丘。とりあえず眺めはいい。ビール。スペイン村。ここは1929年のパルセロナ万博の際にモデルニスモ建築家たちが作った場所。なのだが、こりゃスカだった。 パラレルで、やな気配。後ろを付いてくる男をやり過ごして、今度はエスカレーターを使わずに階段で移動する。すると、男はエスカレーターを降りてからすぐに反対車線のプラットホームへ抜ける。むむ、剣呑なり。 Terrificロープウェイ。絶景かな。ビーチをうろつく。 夜、カサ・ミラがライトアップされタンゴが演奏されるというので行ってみる。なるほど窓から色つきの風船をふくらませて内側からライトアップさせてあり、おもしろい。しかし、コンチネンタル・タンゴは、フヌけたボールルームミュージックのようで、途中で出てしまった。 タパタパで夕食。 |