絵葉書の楽しみのひとつは、使った人の痕跡にある。
 手の切れるような未使用の彩色絵葉書ももちろんいいけれども、余白に通信文が書き込まれ、四隅にアルバムの跡のある絵葉書がいい。その絵葉書を送った人、受け取った人、あるいは絵葉書を丁寧に貼り込み、繰り返し眺めた人のことを考えていると、いくらでも時間が経つ。

 この絵葉書はオランダで手に入れたもの。裏は未使用だが、画鋲のあとがある。画鋲で止めたのが果たしてオランダ人だったのか、あるいはそれがオランダという場所だったかは定かではない。でも、この明治期の異国情緒豊かな女の絵葉書を、誰かが机の前だかどこだかに貼りつけて、日毎眺めながら日本という異国のことを考えていたのではないかと想像するのは楽しい。

 女の前には鏡台がある。けれども、女は鏡台を見てはいない。髪の形を左手でちょいと確かめながら、その髪型を見るであろう誰かを空に描いているような視線。左手が下り、袖に描かれた花が動く直前に、女に気づかれぬようにこの部屋におじゃましてしまった。そして次の瞬間には、こちらをその視線でゆったりととらえていただけるだろうか。
 女のポーズを通して見えるカメラの演技。


19990911


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