二等バス

Oaxaca diary


 クリスマスが近いせいか、二等バスはどれも運転席にクリスマスの飾り付けをしてあるのだが、これがなんとも行きすぎた感じがして楽しい。
 たとえばいま乗っているバスの前部はどうか。まず、赤い日覆いがフロントグラスの上半分を覆っている(これはいつものことなのだろうか)。熱帯の強い陽射しを避けるにはこれくらいの広さが必要なのだろうが、それなら、最初から窓を小さくしておけばよさそうなものだ。さらに日覆いのまわりにはいくつもの飾り紐がつけられているので、運転席のあたりにはちょっとした暗がりができている。覆いの右端には緑色をした靴のアップリケが縫いつけてあり、その靴を紹介するように黄色いトウィーティーが大きくプリントされている。
 トウィーティーの絵は、相棒の黒猫シルヴェスターよりも、同じワーナーのキャラクターであるバックス・バニーやスピーディー・ゴンザレスよりも、圧倒的によく使われている。色彩豊かな国では、トウィーティーくらいどぎつい色でないと釣り合わないのだろう。
 バックミラーは緑のモールで覆われ、いくつもの小さなサンタ人形が下がっている。おそらく平たい鏡は吸盤をつけるのにちょうどいいのだろう。モールと吸盤のおかげで、ほとんど鏡としての用は為していない。
 もうひとつ、バスの入り口の上に丸いミラーがあるのだが、そこにもサンタが下がっている。鏡の中に眠る女性が映り込んでいる。バスではよく眠る人を見かける。終点まで行くのなら降りる場所を気にして外を見続ける必要もないのかもしれない。よく、日本の典型的な風景として、乗り物の中で眠りこける人の映像が使われるが、メキシコの人も眠りこけるらしい。

 客席に向かって大きなスピーカーが鉄柱に取り付けられている。良い音を鳴らすためではない。でかい音を鳴らすためだ。冷房のない車内は窓があちこち開いているので、安いエンジンの音が遠慮なく入ってくる。その音に負けじとばかりに、すりきれたカセットのひび割れたラテンが響き渡る。そんな轟音に包まれながらでも、二等バスのうだるような暑さの中では、ときどき白昼夢のような睡魔に襲われる。
 二人分の座席に横たわり、ぐっすり寝ている小さな男の子がいた。終点近くになって、乗客の女性が試しに肩を揺する。と、子供は不意をつかれた鹿のように飛び起きると、停留所も確かめずにステップを下りて坂を駆け降りて行く。すれちがう人が次々と振り返る。

  (Dec. 23 2004)


 

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