- 19990516
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▼浅草へ。三社祭を見るのは始めて。勝手がわからないので、雷門ごしに見える御輿についてとりあえず仲見世へ。今日は雷門の提灯も首をすくめていて、御輿の高さがそれほどだと知れる。
▼人波に合わせてcm単位で前進し、その人並みを逆行してくる子供御輿に、街路を占拠するとはこういうことかと思い、やがて町御輿が宝蔵門をくぐると、金の鳳凰に朱塗りが映り、セヤセヤの掛け声に合わせて揺れる尾羽がきらめいて火の鳥のよう。 ようやく境内に出ると、浅草寺の階段にびっしり、まるで動かないので千体観音かと思ってよくみれば御輿見物の人人人、そんな風に並んだ人をみたことがないので、遠近が狂ってだまし絵のように見える。御輿が浅草神社の方へ方向転換すると、そのお堂びっしりから拍手が起こり、音が屋根にばちばちとはねかえってものすごく、境内の人混みからもつられてぱらぱらと拍手が起こるが、とてもお堂のそれには追いつかない。同じ見物客でありながら、あちらは観音様の霊験あらたかな上等客、上から見下ろしているから拍手のしどころもよくわかる、こちらは観音様のなんたるかを知らぬ衆生の者、といったところか。やはり何時間も待って寺の階段に陣取るだけのありがたみはあるのだ。
▼御輿について境内を右に。浅草神社の前を過ぎようやく人波にすき間ができたところで、一の宮、二の宮を見に行くことにする。といっても御輿は動き続けているので、どこへ行くかはあてずっぽうだ。浅草寺病院を北に上がり、そこからは半纏姿の人の流れから適当に見当をつけて角を曲がっていく。宮戸座跡あたりには通りにずらりと提灯のアーチが掲げられていて、その下でなごんでいる担ぎ手たちがどこか所在なさそうにしているのはまだ力を出していない証拠で、路におかれた象潟の字の入った町御輿が練り歩くのはこれからなのだ。檜前兄弟の人形が乗った愛嬌のある御輿。
▼そこから左に折れ右に折れすると、向こうの四つ辻に突然右から人がわっと湧きだして、みるみる人波になり、その波の上をゆらゆらと浮くようにこちらに進んでくる公家装束の人、人波から出たその人は馬に乗っていて、それまでの喧噪などどこ吹く風、かっぽかっぽと通り過ぎていく。露払いのようなものなのか。四つ角はもうえらい人でこちらは警視庁です、あぶないですからやくいんかつぎていがいのかたはみこしからはなれてごらんくださいと拡声器の声がする。そこに御輿が来る。本体に布を巻き七つの丸鏡でこちらの目をはねかえしている。明らかに町御輿と違うこの意匠は二の宮?。それにしても思わぬ狭い路を通るんだな。横の小道からコの字型に回り込んで先回りしてみる。やはり同じことを考えたのか、車椅子をものすごい勢いで押して走る人が前をいく。至近で御輿。駐禁の看板がぐらぐらする。ミラーが押されて揺れる。街路を占拠する。マンションの二階の窓から親子が知り合いの担ぎ手に声をかける。顔を真っ赤にした女が交代して御輿を離れていく。その姿を目で追って振り向くと、後ろは人がまばらになってなんの変哲もない住宅街の通りだ。この変哲のなさ。そこに転々と脱げた草鞋が散らばっている。ピューリファイ!っていう詩を思い出した。ピューリファイ!
▼公園通りで青年部による御輿の担ぎ方の説明。
■ 中の人間は、交代の合図をする人間です。交代の合図をして肩を叩かれたら、すみやかに出てください。そして今度は次の方を入れます。次の担ぎ手は、青年部の棒のうしろに、青年部の先導で担ぎ手に並んでもらいますから、それで順番にかつぎます。みなさんそれにすんなり言うことを聞いてやってくれれば、だいたい二回から三回くらい入れるかと思います。で、長時間ゆっくり担ぎたい、という方は、後ろにまわっていただいて、心地よくかついでいただくのがいいんじゃないかと思います。とくにいちばん前に入った方には、はっきり言って1分くらいしか時間はさしあげられません。ゆっくりかつぐにはなるべく奥か、うしろにまわったほうがよいかと思います。
▼新仲見世からオレンジ通りに天狗が出てくる。それが合図なのか、角の舟和が売り台をかたずけはじめる。喫茶ブラジルも余荷解屋(よにげや)もそそくさと店じまいしてシャッターを降ろす。ブラジルの二階からはシャッター越しに御輿見物だ。ほどなく三社囃子がやってきて、オレンジ通りへの出口を蓋するように止まる。やがて新仲見世のアーケードにワッショイワッショイの掛け声が響く。シャッターに人ががしがしと当たり御輿が通り過ぎると、早くもブラジルの自動シャッターがしずしずと上がり、余荷解屋が店頭の品を並べ始める。この用意周到さは、お祭りというよりは市街戦の街路封鎖演習のよう。
▼より道でひとやすみ。みぎーみぎー、ひだりーひだりー、と子供の声。おてらのおしょーさんがかぼちゃーのたねをまーきーまーしーた、めーがーでーてーふくらんで、はーなーがさいてかれちゃって、いっぽんむかってそらとんで、くるっとまわって、じゃーんけーんぽーーん。
▼再び仲見世に戻って、宮入りを待つ。境内の東側は金網の袋小路になっていて、なかなか前に進めない。人垣越しにちらちらと御輿が入るのを見物。
■ けちけちしないで見せろよい、こちとら、病院から許可もらって出てきてんだい。去年はあすこで3時間待って足痛くなっちゃったんだよ。こんなんじゃみえやしねえよ。
▼祭りが終わると景気のいい店には半纏姿の人々の憩う姿。夜は土地っ子のもの。参加者と見物人の間に圧倒的な格の違いが感じられる一日。 ▼夜中に「がらん堂」。ジャズ喫茶に入るのはひさしぶり。「モーニン」に「ワルツ・フォー・デビー」という直球メニュー。どうもこういうジャズのタイトル並べると「美味しんぼ」とか「課長島耕作」みたいだが、当方にソルトピーナッツ食って懐かしむよな時代の記憶など皆無。「Waltz for Debby」のA面を通して聞いたのは20年ぶりくらいだが、ほとんど初めて聞くように聞いた。ええやん、ビル・エヴァンスの左手。
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