ひょうたん池で鯉を釣った話(1)


 釣り堀っちゅうのがあったんですよ。お金だしてね。魚持ってこられないんだけど。四本(しほん)こう、イカリじゃないけど、そういう針でもってひっかけて釣ってたんだ。それはもう切れるとダメなんだけどね。で、その針を、取っちゃダメなんだけど、うちへ持ってきちゃった。

 そいで、ひょうたん池で、鯉にやる餌を売ってたんです。十銭かそこらで麩をね。で、それを買って、つけて、見てないようなフリをして後ろ向きになって、そいで釣り上げちゃったことあんの、こんなでけえの。釣り上げちゃったからほら、しょうがねえや、またすぐ入れりゃあいいものをさ、釣ったヨロコビと思って、そば見て、新聞紙がおっこってっから、新聞紙にくるんでフトコロへ入れて、そんでうちに持って帰った。そいで、うちのタライがあるでしょ、タライに水いっぱい入れて、鯉をこう放した。

 そしたら親父やらお袋やらに怒られちゃってね、おまえひょうたん池の鯉なんか持ってきたらバチが当たるよ、体こわしちゃうよ、すぐに返してこい、なんて言われたんですよ。
 で、二時間くらいたってたかな、そのタライの水がね、青くなっちゃったんですよ。ひょうたん池はすごくどぶ泥で青い水なんだ。それをキレイな水に入れたから、吐いたんじゃないかな。驚いたなと思ってさ、池の色と同じになっちゃった。
 そいでしょうがなくて、また、今度はバケツに入れてさ、池に持ってった。

 山番っつってね、台東区の園丁っつって年中見回りしてる人がいたんです。植木いたずらしたり、鯉にいたずらしたりしてると、その人に見つかると怒られたわけ。トンボなんか採るのにもね、トンボなんか採っちゃいけないっておこられておっかけられた。

(明治四四年生まれの浅草の古老の話/2001.03.01細馬採取)



口上 | 総目次 | リンク