いろはにこんぺいとう/高いは十二階

わらべ歌の中の塔


東京福袋の吉野忍氏から「いろはにこんぺいとう」に十二階が出てくるというおもしろいメールをいただいた。じつはぼくは関西育ちで、「いろはにこんぺいとう」という歌をあまりよく知らなかったのだが、関東圏ではけっこうポピュラーなしりとり歌らしい。氏の覚えておられた「いろはにこんぺいとう」は次の歌詞だ。

いろはにこんぺいとう こんぺいとうは甘い
甘いはお砂糖 お砂糖は白い
白いは兎 兎は跳ねる
跳ねるは蚤 蚤は赤い
赤いはほおずき ほおずきは鳴る
鳴るはおなら おならは臭い
臭いはうんこ うんこは黄色い
黄色いはバナナ バナナは高い
高いは十二階 十二階は恐い
恐いはおばけ おばけは消える
消えるは電気 電気は光る
光るは親父のはげあたま


それにしても、現代の遊び歌に十二階が出てくるとは不思議なことだ。吉野氏も子供心に十二階とは半端な階数だと思っておられたそうで、最近になって、これはあの「浅草十二階」では、と気づかれたとの由。他にもあるだろうか、と思ってウェブ検索をかけてみると、少しバージョンの違う「いろはにこんぺいとう+十二階」がみつかった。さらに本掲示板にも十二階の出てくる「いろはに」が寄せられている。どうやら十二階入りの歌は十二階なき時代に伝承されているらしい。

十二階が出てくる以上、この歌は十二階があったころにはすでに流行っていたはずだ。となると、いつごろからなのか。とりあえず近くの図書館で、「日本のわらべ歌」(柳原書店)をあたってみると、明治大正生まれの人がこの歌を覚えていることがわかった(以下、「〜のわらべ歌」は「日本のわらべ歌」各巻のこと)。

(以下一部引用)
赤いはほおずき ほおずきはなる
なるはおなら おならは臭い
臭いはウンコ ウンコは黄色い
黄色いはバナナ バナナは高い
高いは十二階 十二階は恐い
恐いはお化け お化けは消える
消えるは電気 電気は光る
(「埼玉・神奈川のわらべ歌」、浦和市常磐、大正十五年生まれ、S54採取)

高いは二階 二階はこわい(多野郡上野村乙父)
(「群馬のわらべ歌」、(北群馬、明治35生まれ、S58採取)

バナナちゃ高い 高いもんな煙突
煙突ちゃ黒いもん
黒いもんな炭
炭ちゃおこるもん おこるもんな父(とっと)
(「富山のわらべ歌」大正2年生まれ、富山市北代在住)

ここで、明治35年生まれ群馬の人の歌詞が「高いは二階 二階はこわい」になっているのが興味深い。この歌詞が先で、あとから「十二階」になったのか、あるいはその逆なのか、興味深いところだ。また、大正十五年生まれの、もはや実体としての十二階を知らない人が「十二階」と歌っているのも興味深い。
十二階と縁のない富山では、高いのは煙突になっている。地理的、時間的にどこまでが「いろはに十二階」圏内なのか、気になるところだ。

さらに話は複雑になるのだが、「いろはにこんぺいとう」に似たしりとり歌には「さよなら三角」などいくつかバージョンがあって、使われる単語もかぶっている。たとえば次のものは、やはり十二階が出てくるのだが、歌い出しは「いろはに」ではなく、オチも違う。

世界は広い(しろい)、しろいのは兎、兎はとぶよ、飛ぶのは蚤、のみは赤い、赤いのはほほづき、酸漿は鳴るよ、なるのはおなら、おならは黄色いよ、黄色いのはバナナ、バナナはたかいよ、たかいのは十二階、十二階はこはいよ、こはいのはおばけ、おばけはおどるよ、おどるのは役者、役者は千両。
(日本伝承童謡集成、北原白秋編、S22−55)

また、東京だからといって十二階が出てくるとは限らない。以下の二つは、「高い」を経由しない昭和42年の東京バージョンで、十二階も登場しない。

いろはに金平糖 金平糖は甘い
甘いはお砂糖 お砂糖は白い
白いはうさぎ うさぎははねる
はねるはかえる かえるは青い
青いはお化け お化けは消える
消えるは電気 電気は光る
光るはおやじの はげあたま

さよなら三角、また来て四角
四角は豆腐、豆腐は白い、白いはお砂糖、お砂糖は甘い、甘いは金平糖、
金平糖は星、星は光る、光はおやじのはげ頭。
(「東京のわらべ歌」 昭和42、9ー11採取、淀橋第二小学校児童、新宿区西新宿)

こうしたバージョン違いを見ていくと、記憶の曖昧な部分を創意で埋めるように歌い継がれるのが見えておもしろい。 この件、まだ調べるといろいろありそうだが、とりあえず今回はここまで。(2001.06.07)



追記:

三条紫苑さんより、この唄の最近の動向についてメールを二信いただいたので、その抜粋を公開しておこう。

> 私は大学生ですが、子供の頃にこれを歌いながら遊びました。
> 今ではなわとびの遊びにこの歌が使われていますが、
> 歌詞は大分変わってしまっています。
>
>  いろはにこんぺいとう こんぺいとうは甘い
>  甘いはお砂糖 お砂糖は白い
>  白いは雪 雪は冷たい
>  冷たいは氷 氷は光る
>  光るはおやじのはげあたま
>
> こんな感じです。
> どうも、「光るはおやじのはげあたま」というフレーズだけは不滅のようです。


> 私は東京都民(足立区民)です。
> ですから、東京での歌なんだと思いますが、
> どうして雪と氷なのかは分かりません。
> 私も小さい頃に近所のお姉さんから聞いて習ったので……。
>
> 友人にもいろいろ聞いて回ったのですが、
> 東京の西側へ行ってしまうと、この歌自体を知らない子が多く、
> 逆に23区の中でも東側に住んでいる子の方がよく知っています。
> 皆、口を揃えて「歌って遊んだ」というのです。
> でも、知っている子でも、住んでいる場所によって歌の内容が違うんです。
> 「白い」の後に「うさぎ」が来ると言う子もいれば、
> 「白い」の後は「雪」が来ると言い張る子もいて、
> 皆ばらばらのようなのです。
>
> それでも最後のフレーズは絶対に「光る」で、
> 「おやじのはげあたま」に繋がるんです。
> そこだけは変わらないようです。
>
> 最初に比べると随分歌詞が短くなってしまっているので、
> 色々抜けてしまったり、忘れてしまったりしているのじゃないかと思います。
> 女の子のなわとび遊びには「いろはにこんぺいとう」というフレーズしか使いません
> し。
> 住んでいる場所によって歌の内容が違うというのも、
> 忘れた部分を補った結果じゃないかと推測しています。
> そうやって歌詞が変わってしまった結果、「十二階」は
> 完全に姿を消してしまったようです。
> 台東区や墨田区の友達に聞いても、歌詞の中に
> 「十二階」という言葉は一度も出てきませんでした。

(2003.05.02)


追記:

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